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米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年9月14日 ~弁護士の視点から読み解く~
データセンター規制の広がりと党派間の温度差:電力問題の先にある政策争点 データセンター建設への反対の声は、民主党支持層だけでなく、共和党支持層にも広がり始めています。こうした動きを背景に、議会では上下両院でデータセンターに関する法案が相次いで提出されています。例えば、Ratepayer Protection Act(料金支払者保護法案)は6月に下院へ提出され、下院エネルギー・商業委員会に付託されました。7月の委員会マークアップでは賛成52、反対0という圧倒的な超党派支持を得て、下院に報告され、下院の審議カレンダーに掲載されました。同じマークアップで審議された他の電力関連法案についても、多くが反対票なしで下院への報告が決まりました。 しかし、データセンターをめぐる政策争点は電力だけではありません。電力以外の論点に踏み込むと、議員の間で温度感の違いが明確に表れ始めています。 今週は、電力以外の論点がなぜ政策課題として浮上しているのかを技術的観点から整理しつつ、議会でどのような規制が議論されているのかを解説します。 データセンターでは、最新のCPUやGPUなど、高度な半導体を用いたサーバーが大量に稼働しています。半導体の微細化によって、同じ面積のチップにより多くのトランジスタを搭載できるようになり、演算性能は大幅に向上してきました。一方、特にAI向けGPUでは、高い演算性能を実現するために1チップ当たりの消費電力も大きくなっています。さらに、こうした高性能なCPUやGPUなどを大量に搭載したサーバーが稼働することで、データセンター全体の電力需要が急速に増加しています。これが、データセンターの電力問題の根本的な要因です。 今回、下院委員会を通過した料金支払者保護法案は、データセンターのような大口需要家が新たに電力網へ接続することで必要となる発電・送電・配電設備の増強費用を、当該事業者が負担するような仕組みを設けることで、一般の電力利用者を保護しようとする法案です。上院でも、大口需要家によるインフラ増強費用の負担を求める法案が共和党議員から提出されています。 当初提出された法案では、ピーク需要が100メガワット以上の大規模事業者が対象とされていました。しかし、委員会のマークアップでは、半導体工場や製鉄所などでも同程度の電力需要が生じる可能性があるので、規制対象はデータセンターに限定すべきとの修正案が提案されました。下院に報告された法案では、データの保存・計算処理などを主目的とする情報技術インフラを対象とする限定文言が加えられました。 もっとも、下院委員会のマークアップでは、電力問題はデータセンターをめぐる論点の一つにすぎず、水資源や騒音といった環境問題についても規制を検討すべきであるとの意見が民主党議員から示されました。ここで、水や騒音がなぜ問題視されるのかについて、技術的な観点から簡単に説明します。 データセンターのサーバー内部では、大量の電流が微細な回路を流れています。電流が抵抗のある物質を通過すると、電気エネルギーの一部が熱に変わります。これは「ジュール熱」と呼ばれる現象です。そのため、高性能な半導体を大量に使用するデータセンターでは、大量の熱が発生します。この排熱を放置すればサーバーの故障につながるため、効率的かつ安定的に冷却し続けなければなりません。そこで大規模な冷却設備が必要となりますが、その設備自体も大量の電力を消費するため、電力需要をさらに押し上げるという構造的な課題が生じます。 冷却方法としては、主に空気冷却と液体冷却(水冷)があります。近年のAI向け高性能サーバーでは発熱量が極めて大きいため、空気冷却だけでは十分な冷却能力を確保できず、水冷方式が採用されるケースが増えています。水冷方式ではその設備構成によっては大量の水を利用する可能性があるため、水資源への影響が懸念されています。委員会では、冷却水を循環利用する技術によって水の使用量を抑えられるとの発言もありました。しかし、民主党議員は、水不足への懸念を払拭するには十分ではないとの姿勢を崩しませんでした。 次に、騒音の問題です。空気冷却設備も騒音源となりますが、特に問題視されているのが、データセンターに設置される発電用ジェネレーターによる騒音です。米国のデータセンターでは、停電時のバックアップを目的とした非常用発電設備が一般的に設置されており、電力網からの供給を補完するため、自家発電設備を併用するケースも珍しくありません。マークアップでは、特に常用電源として稼働するガスタービン型ジェネレーターから生じる騒音や臭気が、健康に悪影響を与えるおそれがあるとの指摘が、民主党議員からなされました。 さらに、民主党議員の中には、高速インターネットへのアクセスなどのデジタルインフラの恩恵が十分に届いていない地域が、データセンターによる電力・環境負荷だけを負担することへの懸念を訴える声もありました。こうした地域負担への懸念は、下院の委員会審議にとどまりません。例えば、上院では無所属のバーニー・サンダース上院議員が、新規AIデータセンターの建設を一時停止する法案を提出するなど、モラトリアムという政策手段を求める動きもあります。 これに対し、共和党議員からは、中国がAI分野で米国に追いつくことを目的としてデータセンター建設への反対を促す情報をSNS上で拡散しているとの主張も示されました。その上で、中国とのAI競争に勝つためには、データセンターの建設そのものを妨げるべきではないとの反論がなされています。 電力需要の増大による電気料金の上昇や、インフラ増強費用を一般の利用者に負担させるべきではないという点では、超党派の合意が見られます。しかし、そこから一歩進んで、水資源、騒音、地域負担などを理由とする規制をどこまで認めるべきかという問題に踏み込むと、議員の間で温度感の違いが鮮明に表れています。 AI向けデータセンターの増加が続く中、これらの論点は今後さらに重要性を増すと考えられます。議会がどこまで規制を広げるのか、そして温度差がどのように政策形成に影響するのかが、今後の注目点となります。Read
Sep 14, 2026

米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年9月8日 ~弁護士の視点から読み解く~
夏季休会明けの下院に垣間見える、中間選挙戦略 下院が夏季休会から戻り、まずホッとするニュースは、少なくとも12月11日までは政府閉鎖が起こらないことが確定したことです。上院が休会直前の8月7日、下院から送られてきた別の法案の中身をすべて入れ替えることで早急に可決したつなぎ予算法案を下院も可決しました。それも、一切法案を修正することなく、3分の2以上の賛成を要する規則停止の方法によって可決しました。やはり、両党とも中間選挙を控え、政府閉鎖という政治的リスクを回避したいというインセンティブが働いたのでしょう。 つなぎ予算以外にも、中間選挙を見据えた共和党の戦略がにじみ出るような法案と決議が下院を通過しました。ロブスター漁業者保護、国内鉱業保護、そして社会主義への非難。一見すると関係のないテーマですが、なぜ今、これらが相次いで採決されたのでしょうか。そのうちいくつかをご紹介したいと思います。 「2026年北東部ロブスター漁業者保護法」が可決されました。共和党は、規則委員会を通じてこの法案を審議するための特別規則を作成し、迅速に審議を行いました。なぜ今、「ロブスター漁業者」なのかと思われるかもしれませんが、意外にも中間選挙との関係がありそうです。まず、ロブスター漁業といえばメイン州です。メイン州では、共和党現職のSusan Collins上院議員が民主党候補と11月の中間選挙で議席を争います。また、メイン州はカナダとの関税紛争により、中小企業が痛手を受けている州でもあります。さらに、この法案の審議中にも議員が取り上げていましたが、漁船の燃料となるディーゼル燃料の価格高騰により、メイン州のロブスター漁業者は大きな打撃を受けています。そのような状況の中、タイセイヨウセミクジラ保護のための漁業規制の導入を2035年まで延期し、ロブスター漁業の雇用と経済を守る法案を審議・可決した背景には、中間選挙に向けた思惑があるように思えます。 次にご紹介したいのは、「2025年国内鉱業保護法」です。この法案は、2015年に成立したFixing America’s Surface Transportation Act(FAST Act)の一部を改正するものです。具体的には、対象プロジェクトに「mining, mineral processing (採鉱、鉱物処理)」を追加し、FAST Actによって設立された連邦許認可改善運営評議会が、鉱業分野の対象プロジェクトの範囲を改定する2023年の提案規則を最終化、実施または執行することを禁止する短い法案です。FAST Actの対象プロジェクトに該当すると、簡単にいえば、行政側には許認可手続の進捗に関する透明性や説明責任が課され、手続の遅延を防止するための枠組みに組み込まれることになります。また、対象プロジェクトについて連邦機関が発行した許認可に対する司法審査が、一定の範囲で制限されることも定められています。 FAST Actには、評議会が過半数の決議によって対象プロジェクトを追加できることも記載されています。評議会は、いったん鉱業についても対象プロジェクトに加えたのですが、2023年に、その範囲をcritical minerals mining projectsに限定する旨の規則案を公表しました。 今回下院で可決された2025年国内鉱業保護法は、鉱業を法律上の対象分野として明示し、行政側が対象を重要鉱物採掘プロジェクトに限定する規則案を最終化、実施または執行することを禁止するものです。 2015年にFAST Actが成立した際、上院では賛成83、反対16、下院では賛成359、反対65という超党派の支持を得て可決されました。しかし、2025年国内鉱業保護法は、賛成218、反対201で、民主党議員ではわずか7名が賛成するという党派的な結果となりました。民主党議員は、トランプ政権関係者が鉱業に投資していること、環境への配慮がおろそかにされるのではないかとの懸念、重要鉱物採掘プロジェクトを優先する必要性などを反対理由として挙げていました。 最後にご紹介したいのは、賛成220、反対192で可決された、法的拘束力を持たない「あらゆる形態の社会主義を非難し、糾弾することその他の目的について定める決議」です。この決議には、「2025年11月に民主社会主義者がニューヨーク市長に選出されて以来、アメリカ民主社会主義者(Democratic…Read
Sep 4, 2026

米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年8月31日 ~弁護士の視点から読み解く~
暗号資産規制をめぐるクラリティ法案、上院での攻防とその行方 上院の実質的な審議が再開されるまで、あと2週間程度となりました。夏季休会に入る直前の8月8日、上院での審議開始のためのクローチャー動議が提出され、9月15日にはその採決が予定されている法案があります。それが、暗号資産業界で大きな注目を集めている「Digital Asset Market Clarity Act」です。日本でも「クラリティ法案」と呼ばれ、注目を集めています。 クラリティ法案は、2025年7月17日、賛成294、反対134、すなわち投票した議員の約69パーセントの賛成を得て、超党派で下院を通過しました。その後、同年9月18日に上院へ送付され、上院銀行・住宅・都市問題委員会(以下「銀行委員会」)に付託されました。トランプ大統領が法案の可決を急ぐよう議会に求めたとの報道もあり、早期に上院でも可決されるのではないかという楽観論もありました。しかし最近では、上院審議の行方に不透明感が漂っています。今週は、このクラリティ法案とその上院審議の行方についてお話ししたいと思います。 上院が夏季休会に入る直前の8月8日、上院での審議開始に向け、法案を審議に付すためのクローチャー動議が申し立てられました。フィリバスター(討論による審議妨害)を終了するためには、原則として上院議員の5分の3以上の賛成票(通常60票)によりクローチャーを可決する必要があります。たとえ審議開始に向けたクローチャーに60人以上の上院議員が賛成したとしても、それは法案の審議に進むための手続であり、法案が自動的に可決されるわけでも、直ちに法案自体の採決に移るわけでもありません。審議後、法案自体の採決に移るための段階でもフィリバスターが行われれば、改めてクローチャーが必要となる可能性があります。 暗号資産に関する連邦法の整備が必要であるという点には、両党に一定の共通認識があります。しかし、今年5月14日の上院銀行委員会のマークアップを見ると、「超党派の法案」という最終的な採決結果だけでは分からない、民主党と共和党の根深い対立が浮かび上がります。 マークアップの前半では、民主党議員が提出した修正案の多くについて、民主党と共和党がほぼ党派どおりに真っ二つに分かれました。特に民主党議員の間では、トランプ大統領とその家族による暗号資産関連事業への関与をめぐり、利益相反への対応を求める声がありました。例えば、クリス・ヴァン・ホーレン議員は、大統領、副大統領、連邦議会議員などと暗号資産事業との関係を制限し、利益相反を防止するための倫理修正案を提出しました。しかし、共和党議員が銀行委員会の管轄範囲外であると主張して反対し、共和党議員全員の反対によって否決されました。民主党側は、このほかにも、暗号資産を利用した制裁回避の防止、マネーロンダリングへの法執行強化、消費者・投資家保護、地方銀行からの預金流出などへの対応のための修正案を求めました。ところが、ウォーレン議員は、委員長は「手続上の要件」を理由に十数件の修正案を審議対象から外しており、その中には、法執行機関やコミュニティ銀行の懸念に対応する修正案も含まれていたと主張しました。また、審議対象となった修正案も賛成11(民主党議員)、反対13(共和党議員)で否決されました。少なくともこの段階では、法案が超党派の合意に向かっているようには見えませんでした。 しかし、マークアップの終盤になって、流れが変わります。ティム・スコット委員長は、民主党議員から「超党派の結果にするため」、修正案を追加してほしいとの要請を受けたとして、5つの修正案を取り上げる考えを示しました。エリザベス・ウォーレン議員は、一部の修正案だけを選ぶのであれば、提出されたすべての修正案、特に法執行機関やコミュニティ銀行の懸念に対応する修正案を審議すべきであると反対しました。 その後、一部の修正案は18票または19票を得て可決され、共和党議員だけでなく民主党議員も賛成しました。最終的には、ルーベン・ガレゴ議員とアンジェラ・オルソブルックス議員の2名の民主党議員が法案に賛成し、法案は15対9でかろうじて超党派の形で委員会を通過しました。 この経緯を見ると、15対9という最終結果だけをもって、法案について幅広い超党派の合意が成立したと評価するのは早いように思います。マークアップ前半では主要な修正案をめぐって両党が鋭く対立し、終盤になって委員長が選んだ修正案を取り上げたことで、限定的な超党派性が形づくられたからです。委員会で作られたこの「15対9」が、5分の3以上の賛成を必要とする上院本会議でも再現できるのかが、今後の焦点です。 複数の報道によれば、銀行業界の団体は、暗号資産事業者が提供するリワード・プログラムが銀行預金の利息に類似しているとして、その規制を求めています。一方、ポリティコによると、暗号資産業界は、中間選挙に向けてクラリティ法案に反対する議員に対抗するため巨額の資金を投入すると述べているようです。このように、法案をめぐる議論は、暗号資産業界だけでなく、銀行業界や選挙を意識する議員にも広がっています。 仮に上院で審議入りに向けたクローチャーが可決され、その後、法案自体も可決されたとしても、上院で下院可決案と異なる内容の法案が可決されれば、それだけで成立するわけではありません。上院版を下院が可決するか、両院が同一の文言に合意したうえで、それぞれが改めて可決する必要があります。秋以降、議会が法案審議に充てられる時間は限られています。選挙の結果によっては、選挙前とは審議の優先順位が変わる可能性もあります。成立に近づいているように見えるクラリティ法案ですが、残された時間と手続を考えると、その行方はなお不透明と言わざるを得ません。Read
Aug 26, 2026


