Trending Conversations for Trade

米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年9月8日 ~弁護士の視点から読み解く~
夏季休会明けの下院に垣間見える、中間選挙戦略 下院が夏季休会から戻り、まずホッとするニュースは、少なくとも12月11日までは政府閉鎖が起こらないことが確定したことです。上院が休会直前の8月7日、下院から送られてきた別の法案の中身をすべて入れ替えることで早急に可決したつなぎ予算法案を下院も可決しました。それも、一切法案を修正することなく、3分の2以上の賛成を要する規則停止の方法によって可決しました。やはり、両党とも中間選挙を控え、政府閉鎖という政治的リスクを回避したいというインセンティブが働いたのでしょう。 つなぎ予算以外にも、中間選挙を見据えた共和党の戦略がにじみ出るような法案と決議が下院を通過しました。ロブスター漁業者保護、国内鉱業保護、そして社会主義への非難。一見すると関係のないテーマですが、なぜ今、これらが相次いで採決されたのでしょうか。そのうちいくつかをご紹介したいと思います。 「2026年北東部ロブスター漁業者保護法」が可決されました。共和党は、規則委員会を通じてこの法案を審議するための特別規則を作成し、迅速に審議を行いました。なぜ今、「ロブスター漁業者」なのかと思われるかもしれませんが、意外にも中間選挙との関係がありそうです。まず、ロブスター漁業といえばメイン州です。メイン州では、共和党現職のSusan Collins上院議員が民主党候補と11月の中間選挙で議席を争います。また、メイン州はカナダとの関税紛争により、中小企業が痛手を受けている州でもあります。さらに、この法案の審議中にも議員が取り上げていましたが、漁船の燃料となるディーゼル燃料の価格高騰により、メイン州のロブスター漁業者は大きな打撃を受けています。そのような状況の中、タイセイヨウセミクジラ保護のための漁業規制の導入を2035年まで延期し、ロブスター漁業の雇用と経済を守る法案を審議・可決した背景には、中間選挙に向けた思惑があるように思えます。 次にご紹介したいのは、「2025年国内鉱業保護法」です。この法案は、2015年に成立したFixing America’s Surface Transportation Act(FAST Act)の一部を改正するものです。具体的には、対象プロジェクトに「mining, mineral processing (採鉱、鉱物処理)」を追加し、FAST Actによって設立された連邦許認可改善運営評議会が、鉱業分野の対象プロジェクトの範囲を改定する2023年の提案規則を最終化、実施または執行することを禁止する短い法案です。FAST Actの対象プロジェクトに該当すると、簡単にいえば、行政側には許認可手続の進捗に関する透明性や説明責任が課され、手続の遅延を防止するための枠組みに組み込まれることになります。また、対象プロジェクトについて連邦機関が発行した許認可に対する司法審査が、一定の範囲で制限されることも定められています。 FAST Actには、評議会が過半数の決議によって対象プロジェクトを追加できることも記載されています。評議会は、いったん鉱業についても対象プロジェクトに加えたのですが、2023年に、その範囲をcritical minerals mining projectsに限定する旨の規則案を公表しました。 今回下院で可決された2025年国内鉱業保護法は、鉱業を法律上の対象分野として明示し、行政側が対象を重要鉱物採掘プロジェクトに限定する規則案を最終化、実施または執行することを禁止するものです。 2015年にFAST Actが成立した際、上院では賛成83、反対16、下院では賛成359、反対65という超党派の支持を得て可決されました。しかし、2025年国内鉱業保護法は、賛成218、反対201で、民主党議員ではわずか7名が賛成するという党派的な結果となりました。民主党議員は、トランプ政権関係者が鉱業に投資していること、環境への配慮がおろそかにされるのではないかとの懸念、重要鉱物採掘プロジェクトを優先する必要性などを反対理由として挙げていました。 最後にご紹介したいのは、賛成220、反対192で可決された、法的拘束力を持たない「あらゆる形態の社会主義を非難し、糾弾することその他の目的について定める決議」です。この決議には、「2025年11月に民主社会主義者がニューヨーク市長に選出されて以来、アメリカ民主社会主義者(Democratic…Read
Sep 4, 2026

米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年8月31日 ~弁護士の視点から読み解く~
暗号資産規制をめぐるクラリティ法案、上院での攻防とその行方 上院の実質的な審議が再開されるまで、あと2週間程度となりました。夏季休会に入る直前の8月8日、上院での審議開始のためのクローチャー動議が提出され、9月15日にはその採決が予定されている法案があります。それが、暗号資産業界で大きな注目を集めている「Digital Asset Market Clarity Act」です。日本でも「クラリティ法案」と呼ばれ、注目を集めています。 クラリティ法案は、2025年7月17日、賛成294、反対134、すなわち投票した議員の約69パーセントの賛成を得て、超党派で下院を通過しました。その後、同年9月18日に上院へ送付され、上院銀行・住宅・都市問題委員会(以下「銀行委員会」)に付託されました。トランプ大統領が法案の可決を急ぐよう議会に求めたとの報道もあり、早期に上院でも可決されるのではないかという楽観論もありました。しかし最近では、上院審議の行方に不透明感が漂っています。今週は、このクラリティ法案とその上院審議の行方についてお話ししたいと思います。 上院が夏季休会に入る直前の8月8日、上院での審議開始に向け、法案を審議に付すためのクローチャー動議が申し立てられました。フィリバスター(討論による審議妨害)を終了するためには、原則として上院議員の5分の3以上の賛成票(通常60票)によりクローチャーを可決する必要があります。たとえ審議開始に向けたクローチャーに60人以上の上院議員が賛成したとしても、それは法案の審議に進むための手続であり、法案が自動的に可決されるわけでも、直ちに法案自体の採決に移るわけでもありません。審議後、法案自体の採決に移るための段階でもフィリバスターが行われれば、改めてクローチャーが必要となる可能性があります。 暗号資産に関する連邦法の整備が必要であるという点には、両党に一定の共通認識があります。しかし、今年5月14日の上院銀行委員会のマークアップを見ると、「超党派の法案」という最終的な採決結果だけでは分からない、民主党と共和党の根深い対立が浮かび上がります。 マークアップの前半では、民主党議員が提出した修正案の多くについて、民主党と共和党がほぼ党派どおりに真っ二つに分かれました。特に民主党議員の間では、トランプ大統領とその家族による暗号資産関連事業への関与をめぐり、利益相反への対応を求める声がありました。例えば、クリス・ヴァン・ホーレン議員は、大統領、副大統領、連邦議会議員などと暗号資産事業との関係を制限し、利益相反を防止するための倫理修正案を提出しました。しかし、共和党議員が銀行委員会の管轄範囲外であると主張して反対し、共和党議員全員の反対によって否決されました。民主党側は、このほかにも、暗号資産を利用した制裁回避の防止、マネーロンダリングへの法執行強化、消費者・投資家保護、地方銀行からの預金流出などへの対応のための修正案を求めました。ところが、ウォーレン議員は、委員長は「手続上の要件」を理由に十数件の修正案を審議対象から外しており、その中には、法執行機関やコミュニティ銀行の懸念に対応する修正案も含まれていたと主張しました。また、審議対象となった修正案も賛成11(民主党議員)、反対13(共和党議員)で否決されました。少なくともこの段階では、法案が超党派の合意に向かっているようには見えませんでした。 しかし、マークアップの終盤になって、流れが変わります。ティム・スコット委員長は、民主党議員から「超党派の結果にするため」、修正案を追加してほしいとの要請を受けたとして、5つの修正案を取り上げる考えを示しました。エリザベス・ウォーレン議員は、一部の修正案だけを選ぶのであれば、提出されたすべての修正案、特に法執行機関やコミュニティ銀行の懸念に対応する修正案を審議すべきであると反対しました。 その後、一部の修正案は18票または19票を得て可決され、共和党議員だけでなく民主党議員も賛成しました。最終的には、ルーベン・ガレゴ議員とアンジェラ・オルソブルックス議員の2名の民主党議員が法案に賛成し、法案は15対9でかろうじて超党派の形で委員会を通過しました。 この経緯を見ると、15対9という最終結果だけをもって、法案について幅広い超党派の合意が成立したと評価するのは早いように思います。マークアップ前半では主要な修正案をめぐって両党が鋭く対立し、終盤になって委員長が選んだ修正案を取り上げたことで、限定的な超党派性が形づくられたからです。委員会で作られたこの「15対9」が、5分の3以上の賛成を必要とする上院本会議でも再現できるのかが、今後の焦点です。 複数の報道によれば、銀行業界の団体は、暗号資産事業者が提供するリワード・プログラムが銀行預金の利息に類似しているとして、その規制を求めています。一方、ポリティコによると、暗号資産業界は、中間選挙に向けてクラリティ法案に反対する議員に対抗するため巨額の資金を投入すると述べているようです。このように、法案をめぐる議論は、暗号資産業界だけでなく、銀行業界や選挙を意識する議員にも広がっています。 仮に上院で審議入りに向けたクローチャーが可決され、その後、法案自体も可決されたとしても、上院で下院可決案と異なる内容の法案が可決されれば、それだけで成立するわけではありません。上院版を下院が可決するか、両院が同一の文言に合意したうえで、それぞれが改めて可決する必要があります。秋以降、議会が法案審議に充てられる時間は限られています。選挙の結果によっては、選挙前とは審議の優先順位が変わる可能性もあります。成立に近づいているように見えるクラリティ法案ですが、残された時間と手続を考えると、その行方はなお不透明と言わざるを得ません。Read
Aug 26, 2026

米国議会・政策アナリティクス Newsletter 2026年8月24日 ~弁護士の視点から読み解く~
「社会主義」は何を意味するのか――アメリカ議会の議論から アメリカ議会は、しばらくは3日以上休会にしないように形式的な議会が開かれているだけで、実質的には9月までお休みです。そこで今回は、中間選挙の予備選挙で話題に上ることが多くなったDemocratic Socialist(民主社会主義者)と議会の動きについて解説させていただきたいと思います。 去年の11月4日に、自らを民主社会主義者と呼ぶゾーハン・マムダニ氏がニューヨーク市長選挙で当選したというニュースが報じられて以降、アメリカ各地の民主党予備選挙で、自らを民主社会主義者と分類する候補者が現れ始めています。 このマムダニ氏の当選が大きなニュースとなった直後の2025年11月17日、下院規則委員会で「社会主義がもたらす惨禍を非難する(Denouncing the horrors of socialism)」と題するConcurrent resolution(両院共同決議)の審議条件を定める特別規則のヒアリングが行われました。両院共同決議というのは、大統領の署名を要しないので、法律的な拘束力はありません。ですから、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」という決議を審議するのは、もっぱら政治的な意図ということになります。 ただ、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」両院共同決議が下院で審議されたのは、去年が初めてではありません。2023年から始まった118会期の1月、同じタイトルの決議が下院に提出され、提出後1週間余りで下院本会議で審議され、賛成328、反対86という圧倒的多数で可決されました。当時は、共和党内にケビン・マッカーシーを下院議長として選任することに対する造反者が現れ、史上最多の15回の投票の末に下院議長が選ばれました。このように混乱した共和党内の結束を示す意味でも、この決議が審議されたと言われています。 日本人の目から見ると、「社会主義がもたらす惨禍」という発想が分かりにくいかもしれません。アメリカでは、冷戦時代から共産主義、特にソ連やキューバなどに対する強い警戒感や嫌悪感が社会に根付いています。一般のアメリカ人の政治的な感覚の中では社会主義と共産主義がかなり強く結びついていると言われています。 さらに、アメリカ南部、特にフロリダ州などには、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアといった国に成立した社会主義政権から逃亡し、のちに市民権を取得した国民とその子孫が多く住んでいます。現在の国務長官であるマルコ・ルビオ氏はキューバ系アメリカ人です。そのような人たちにとってみれば、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」というのは当然ということになります。 ですから、キューバ系アメリカ人であるフロリダ州のマリア・エルビラ・サラザー下院議員が、2025年10月末に「社会主義イデオロギーは、権力の集中を必要とし、それは何度も繰り返し、共産主義体制、全体主義的支配、そして残忍な独裁政権へと崩壊してきた」という文言から始まる「社会主義がもたらす惨禍を非難する」という両院共同決議を再度下院に提出したというのも理解できます。さらに、63名の共和党議員が共同提出者として名を連ねています。 ただ、この決議の問題は、社会主義イデオロギーの定義が明確になっていないという点です。冒頭でご紹介した去年の下院規則委員会でのヒアリングで、規則委員の民主党筆頭委員が、この決議の付託を受けた金融サービス委員会のヒル議長に対して、「共和党は、民主党が主張することすべてを社会主義だという傾向にあるけれども、この決議にある社会主義の定義は何なのか」と質問し、個々の制度ごとに社会主義の制度であるか質問を続けました。その中で、ヒル議長はメディケアとオバマケアに関して、現在の制度は国側の関与が強すぎるので、社会主義的な側面を持つ制度であると回答していました。ソーシャルセキュリティーとSNAPについては、社会主義の制度ではないと答え、さらに、国家が半導体の会社や国防関係の会社の持分を所有することについても、社会主義ではないと答えていました。 「社会主義がもたらす惨禍を非難する」決議は、2025年11月21日に下院で審議され、賛成285、反対98で可決されました。内訳として、共和党では賛成199票、反対0票、民主党では賛成86票、反対98票でした。2023年2月の投票で、賛成に投票した民主党は109で、反対は86でした。つまり、若干ではあるのですが、民主党内で賛成から反対にシフトしてはいるものの、民主党内でも意見がほぼ二つに分かれていることが読み取れます。 規則委員会のヒアリングの冒頭で、金融サービス委員会のヒル議長は18歳から29歳の62パーセントが社会主義に対して好印象を持っていることへの懸念を表明していましたが、そもそもアメリカでは社会主義という言葉自体の意味が世代や政治的立場によってかなり異なっています。そのため、民主社会主義の問題は、単純に社会主義への賛否というよりも、「社会主義」という言葉を誰がどのような意味で定義し、どのようなイメージで有権者に伝えていくのかという戦術次第で、選挙への影響が変わってくるのかもしれません。Read
Aug 17, 2026


